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更新日:07/09/18 14:22

管理人:久保田正伸

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今なお色あせぬ小塚老人のことば

 原作は株をやってない人もおもしろいと思うけど、やっているとすごく感情移入できる著作です。舞台はドン底の不況下にある東京の下町、荒川区町屋。マーケットに精通した小塚老人が、パチンコしか生きる術のない大学出たての青年を、社員として雇うところから物語は始まる。
 老人が一見取り柄のないその青年になぜ声をかけ、社員にしたかを語る一説が印象的だ。
「(前略)ロシアの小説家がこんなことを言っている。『ほんとうに貧しい人というのは、みんなと一緒に貧しい人のことだ。ひとりきり孤独に貧しい者は、まだ金をつくっていない金持ちにすぎない』。大勢の野次馬のなかにぽつりと浮かんで、きみはまさにそんな風に見えた」。
 この時から青年の生活は180度変わる。青年を老人にどんな風に仕込んでいくのかがひとつの興味ポイントだ。

 物語では、長銀株を売るシーンが出てくる。株の世界では「安く売って高く売る」を目標とする「現物取引」がオーソドックス。だが、その他に「信用取引」というものがある。信用取引では「売り」から始めて、安い値段で買い戻すことで利益を得られる。不況下で株価が下落していく状況でも、この「信用売り(いわゆる、空売り)」が有効だ。
 老人はこの空売りにより下落する長銀株で利益を得る。この物語が書かれた時代から数年がたち、現在では長銀は新生銀行に生まれ変わった。ただ、老人が語ったことばは今でも古びていない。

「日本人は金をうしろ暗いもの、汚いものと考える傾向がある。(中略)欧米諸国では最優秀の人材を投入して、熱心に殖産に励んでいる。(中略)(日本人が)巨額の資金をもって怯えているのでは、世界中の金融機関からねらい打ちにされるのがおちだろう」

 小塚老人のことばどおり、現実でも新生銀行を買ったのはアメリカの投資会社リップルウッドだった。大量の日本の税金投入→銀行再生→米投資会社が利益を得たわけだ。最近の株式市場では株式公開買付(TOB)が話題で、アメリカの投資会社はますます日本の資産に注目している。

 この物語が原作となったテレビドラマ『ビッグマネー』を見たのが同書を読んだきっかけ。テレビの方は、全体的には値動きとかハラハラさせられたりして、エンターテイメントとしておもしろい。ただ、『ビッグマネー』では、物語全体を通して「本当はお金よりも心が大切だよ」みたいなメッセージを感じる点が、原作で語られているテーマとは、表面的には少し、実際には大きくずれていた。

「本当に大切なのは人の心、だからお金なんか気にしちゃしけない」。なんだか短絡的すぎ。原作が語るのは、
「本当に大切なのは人の心。それを守る手段として、お金と真剣につきあうべき」だということだ。テレビ化された時点で、著者のメッセージが歪曲された点がちょっと残念だった。

 同書に戻り、もうひとつ印象に残った老人のことばがある。株だけでなく、すべての出来事には波があるという話だ。もちろん人生にも波がある。今、自分の人生の波はどんな風に動いているのか、そして、今、自分はどんな波の中にいるのか?老人のことばのおかげで、私自身もおもしろい視点で自分を見直してみることができた。

 以前は大企業の部長以上の高給をもらっていたスチュワーデスも不景気時代に入り、普通のOLとほとんど変わらない給料だという。それでもスチュワーデス=美しい、という客の期待を裏切るわけにはいかない!とがんばるスチュワーデスたちの努力から生まれた知恵が書かれています。また、海外の航空会社のスチュワーデスだった著者は同僚も外国人だった。というわけで世界中の女性の考え方も読めておもしろい。

 美しく見せる秘訣が書かれており女性の方は必読。たとえば、化粧品にお金をかけずにきれいになる方法、太ってもやせたように見せる方法、ブランド品を安く買うコツ、スチュワーデスの得意技スカーフをきれいに巻くコツ(思い切りキツク巻くんだそうです)、料理は安く手早く作ってゴージャスに見せる……女の人って大変なのね。でも、大変なのにいろいろ工夫して、美しく見せる。本質から美しくしよう、という考え方と、どうしようもないときは見た目でごまかそうというしたたかさが混在。それは、女性魂か、プロ根性か、繊細な女性らしい知恵と気配りか、とにかく迫力がある。

 海外の女性たちは、日本人には考えられないほど環境や節約に気を配るそうで。買い物に行けば値切るのが上手。「きれいな服を着る必要はない。いつも清潔にしていればいいんだよ」と昭和一桁生まれの私の母は言っていた。海外の女性の考え方は、昔の日本女性の考え方と同じかも。今の日本人は物とお金にまみれて、知恵を失ってしまったのかな。

 私は男だけど、男から見ても「女の人ってこんなことを気にしてるんだ」とわかっておもしろい。今朝、この本に書いてあった方法をひとつ試してみました。お米のとぎ汁を顔につけて自然乾燥させる(女性の乳液代わりになるのだとか)。なんだか楽しい。文庫本でサクッと読めます。

趣味関連

この本を読んで本当にタバコを止めました

得るものと失うものの物語

 戦国時代であろうか。

 狼にひろわれ、行者に育てられたワタルは「立派な人間になりたい」と思い旅をしていた。ある時、さらわれた娘、鏡子(かがみこ)を夜盗の手から救う。鏡子は生まれた時に持っていた鏡を失ったため過去の記憶がない。ワタルと鏡子、ふたりの旅は鏡子の家探しの旅。その途中、さまざまな事件に出会う。

 鏡子はワタルのことを「自分のことを救ってくれる人」と直感し、ワタルから離れない。ワタルは修行の旅に女は妨げ、と考えたが、純真な鏡子をじょじょに好きになる。

 第七話「白比丘尼」。途中、何度も生まれ変わり、何千年を生きる白比丘尼にふたりは出会う。白比丘尼は「この娘が知恵を持った時、おまえたちは別れ別れになるであろう」と予言する。

 結末部分が12年間書かれなかった未完の名作だが、今回著者が加筆しワタルと鏡子の最後が語られる。
 あとがきで著者はこの話を「得るものと失うものの物語」と書いている。各話の登場人物それぞれに得るものと失うものがある。ワタルもまた望みである立派な人間にはなれていないし、鏡子も鏡(過去の記憶)を失った状態。失ったものを得た時にふたりはどうなるのか?

 決して上手とはいえない素朴なタッチの絵が、人生を一気に縮図化し、自分自身をも振り返らせてくれる。私は億単位のお金を持ちになりたい。けれども、それが実現した後はどうなるか?そんなことは実現していない人にはわからない話なのだ。

組織と人間の関係

 警察の取り調べで、犯人が完全に自白した状態を「完落ち」、すべてを自白していない状態を「半落ち」というそうだ。49歳で妻を殺害したこの警察官は、殺人は認めても、殺人後に出頭するまでの2日間については、決して語ろうとしない。敏腕の刑事、検察官、新聞記者、弁護士らが、その謎に挑む。

 小説では警察組織の内情がリアルに描かれる。検察は警察の上位機関としての位置づけられるが、組織対組織、狭い地域の中での「つきあい」の図式の中では、上位機関としての機能が有効に働かない。長年、同じ組織の中で勤務し続けていく人達が、恐れ、大切にするものは、犯行の真相を究明とはまったく異なる。組織維持、保身なのだ。

 「人間はひとりでは生きていけない」。こんなことばを聴いたら、ふだんの私なら「言い古されたフレーズだな」程度にしか考えない。だが、この小説を読み終えた時、自分の浅はかさが恥ずかしくなるほどに、深いモノを受け取った気がした。

 未来を予測する数々の理論が提示されている

 舞台は西暦2020年。遺伝子を操作することで、癌などの大人になってからかかる多くの病気を予防できる。さらに、頭のよさなど、プラス面の遺伝子操作も行われた人間が現れる。それがジーンリッチだ。
 未来のSF夢物語ではなく、実際に技術的に人間への遺伝子操作が可能になっていったときに、人の心はどう変わるか。多くの予測が含まれている。冒頭で事件を巻き起こす未来のインターネットウィルスは、パソコンへの影響のみならず、直接、人間に作用する点にも驚いた。
 物語には多くの理論が登場し、未来予測の根拠を示している。不確定性原理、アポトーシス、クローン、遺伝子・・・などの説明。私にはちょっと難しかったが、科学やSF好きの人にはおすすめだろう。
 物語の中では、少年と青年との友情、男女の愛などの人間関係が、遺伝子操作時代の人の心のあり方のひとつの解となっている。主人公たちが属する頭脳波乗工房株式会社は、社会からドロップアウトした少年・青年たちが集まり、営業している設定。だが、彼らの会話、つきあい方などから、頭脳波乗工房は、あたかもエリート大学出身の頭のいい子供たちが作ったベンチャー企業に感じられた。男女の愛も美化され、リアリティが感じられなかった点がちょっと残念。ただ、そんな読み方をしたのは、私自身が社会からいったんは、ドロップアウトしているし、おやじ化したせいなのかもしれない。

 謎を解明したい欲求はもどかしく広がっていく

 物語は、鬱病を煩ったこともある内向的な主人公のひとり、関口の視点で語られる。関口自身は表向きは謎の答えを解明しようと努力する。だが、本当は最初から謎の答えを知っていたのかもしれない。知りたくないという気持ちが強いために、真実から目をそむけ、彼の目は容易に開かない。だが、陰陽師京極堂の論理的な解明や、榎木津の示唆により少しずつ関口の迷妄は解かれていく。
 関口は思い出したくないことを少しずつ思い出す。本文の中では一行おいて語られる一言か二言程度の関口の独白が衝撃的。そして、幻視ができるため最初からすべてを知っているはずなのに、多くを語らない探偵榎木津の存在もあり、謎の解明は引っ張るだけ引っ張られ、読んでいる側にとっては、知りたい欲求がもどかしく広がっていく。
 密室殺人、容疑者を集めた謎解きなど、よくあるミステリーの手法を取っている部分はあるが、その解答は陳腐なトリックとはまったく違うところにある。その他、夢の描写、科学・心理学・民俗学などの豊富な知識、個性的な登場人物、周到な複線、論理的解明の体裁をとりながら霊や妖怪を潜在的に恐れる日本人の心理をつく設定など、新人作家(京極夏彦のデビュー作)と思えないほど、興味を引く手法が随所に散りばめられている。
 関口は、自分は狂人かもしれないと疑っているほど、なんだか頼りない人だ。そう思いながら読み進むうちに、私自身が正常な視点を持てていないのではないか、という感覚に襲われた。きっと私も京極堂の罠にはまってしまったのだ。

 

 舞台は、昭和30年頃の大阪、広大な大阪造兵廠跡地から高価な鉄が掘り出されたところから始まる。後にアパッチ部落と呼ばれるバラック小屋の集落が、大阪造兵廠跡地のすぐそばにあった。

 在日朝鮮人であるだけで日本人から差別され、ろくな仕事につけない状況で、まじめに生きていくことができるだろうか。どん底の中で必死に生きようとする人たちは、追いつめられ窮鼠猫を噛むように生命力を爆発させる。そして、活劇のようなダイナミックなシーンが展開される。時には生命力が高じて犯罪につながる場合もある。犯罪のそもそもの原因は、日本人の心の狭さにも問題はあったはず。その罪が取り締まられ、朝鮮人の信用はますます落ちる。朝鮮人を憎悪する警察官もいた。朝鮮人に先入観のない後輩の警官には、「朝鮮人はみな犯罪者や思うて間違いないんじゃ」と教え込む。そして、やってもいない罪もおしかぶせ、刑を重くした。朝鮮人も日本人をまったく信用しない。日本人と朝鮮人は、「へびがお互いの尻尾を呑み込もうとする」ような、終わりのない不信感に陥っている。

 舞台は移り長崎の大村収容所、そして現代へ。私は長崎の大村市に縁があり、年1回観光で出かけます。今年は、大村収容所跡地の前を通ったことを本を読みながら思い出しました。朝鮮人を貶める日本人もいる一方で、救った日本人もいた。そしてラストシーンの手前で感動の場面が。主人公のひとりが生きていて本当によかった。よく生きていることができた、と涙が出ました。最近、梁石日を立て続けに読みましたが、名作中の名作です。

 

 またまた梁石日の小説を読みました。「Z」という本です。こちらは,かなりノンフィクション部分も多く,1945年太平洋戦争終戦当時の朝鮮の状況なども書かれています。とにか拷問や殺戮のシーン描写が精密で,読んでいるだけでも,殺される寸前の時間を味わっているような,深い不安と恐怖に陥ります。

 この本は韓国人同士の拷問や殺戮の話が多いけど,当時,日本人は,それに倍する拷問,殺戮を行ったことは間違いない。私は,以前は韓国人がどうしてそんなに日本人を目の敵にするのか?と思っていました。この本を読んだ後では,もし自分の肉親が苦しめられ,家畜のように殺されたとわかったら,相手を許す気にはなれないだろうと,本のあまりにも悲惨な描写に感情移入したことで気づかされました。

 ただ,日本とか韓国とかアメリカといった国名や,イデオロギーのような考え方を敵視しがちだけれども,実際はそういったものを隠れ蓑にした,利権に群がって争っている個人や組織などがある。そういった人たちは実際には処罰されず,戦後も生き延びて富豪の生活を送っていたりする。正義もへったくれもない。

 

(上)餓死寸前になり汚い身なりをして浮浪する母娘を,自分は助けるだろうか。おにぎりのひとつも手渡しははしても,それ以上のことは私にはできない気がする。身勝手で暴力をふるう夫,耐える女,当然のように行われる朝鮮人に対する差別(小説の舞台は1920年代頃から),そして戦争。すべてが理不尽で胸が痛い! 帯には「人間のあらゆる欲望を体現した男」とあるけど,その男の話だけではありません。

(下)ふつうの人たちのエゴが生み出した化け物

 主人公・金俊平はひどい人間である。酒を飲んで暴力をふるう。大金持ちになってもケチ。誰も信じようとしない。女は性の対象としては必要、子供も必要だが、絶対信用しない。気をゆるせる人はほとんどいない。型破りな行動と体力があり、極道さえも恐れる。
 ただ、常識的な見方をした場合、少しだけいいところもある。比較的きれい好き、自分で手と時間をかけて料理を作る・・・ゲテモノ料理だが食べてみるととてもおいしいものもある。ケチな反面、節約もする。金持ちになっても服を着飾ったりして見栄をはることは一切しない。そして、徹底した個人主義を守るためならば極道とでも戦う意志と体力がある。
 多くの日本人たちは、金俊平とは逆の性格だろう。人と協調(するふりを)しているが実は迎合している。ちょっとお金があれば外見を整えて見栄を張りたがる。料理はインスタント化、料理に限らず自分ではなるべく手をかけずサボろうとする。
 金俊平という化け物は、そんな周囲のふつうの人たちのエゴが生み出した化身ではないか。そして、俊平が借金を取り立てる相手や見栄っ張りな極道に対して破天荒な暴力を容赦なくふるう時、一瞬だが快感を覚えた。体裁で改まったフリをしている世の中をぶっこわす快感だった。
 通読すると、いろいろな人の一生を短時間で見せらた気になる。苦労し耐えながら生きた俊平の本妻も病気が見つかった後はすぐに鬼籍の人に。超人俊平も時間の流れには逆らえない。人は何のために苦労して生きるのか。

 

 人は目先のお金に困った時に,ねずみ講とわかっていても手を出す。親類,友達を販路にするねずみ講にはまりこむと,自分だけ抜け出すわけにはいかない。楽をしてもうかるはずの親になっても,実際はそうはならない。さらに子が倒れれば共倒れ。勧誘者は,自己実現を話していたのに,いつの間にか我欲の実現に変わっていく説得術のウソなど,フィクションの小説だが内容は非常にリアル。

 

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